高い技術を父親から継承して
高い技術で建具を製造・取りつけ

 稲沢市平和町に工場を構える「木村建具店」。一歩足を踏み入れると、木の匂いが立ちこめ、大きな作業台を囲んで、たくさんの機械が並びます。材料を切る、表面を平らに仕上げる、接着面に圧をかける――など、建具の製作過程で用途に合わせて用いられます。
 工場では「木村建具店」の木村正美さん(四六)が一人で障子戸やふすま、扉などの建具を製作しています。  「最近の注文は、ベニヤ板を使用したフラッシュ構造のものが多いですね」と正美さん。採寸し、断裁した木の枠を組み、両側にベニヤを張り付けていきます。材料、大きさ、デザインすべてが注文ごとに違うため、一つの扉が出来上がるまでに五日程かかることも。仕事は工場の中だけではありません。まずは現場へ行って採寸、お客さんとの打ち合わせの後、製作に入ります。出来上がった建具を現場へ運び、その場でスムーズな開閉ができるように調整を加えるまでが、建具屋の仕事です。いくつもの現場を一人で抱えているため、「納期のスケジュール管理が大変」と話します。

 「木村建具店」は創業四八年、木村さんの父・正一さんが始めました。小学生の頃から仕事の手伝いをし、ものづくりの楽しさを学んだ木村さん。高校卒業後は木工関係の会社へ就職。その後、名古屋の美容メーカーへ勤めるなど他業種も経験しましたが、二三歳のときに家業を手伝うことを決意しました。しばらくは親子で仕事をしていましたが、突然、正一さんが脳出血で倒れ、二人でやっていた仕事を正美さん一人がやることに。「あのときは本当に大変でした」と急に事業を継ぐことになったときの苦労を話します。
 現在も多くの工務店や大工から仕事の依頼があるため、朝早くから夜遅い時間まで働く毎日。妻・喜久子さんも仕事が休みの日に手伝ってくれるなど、家族のサポートの中で仕事をこなしています。
  近頃はリフォームの依頼が多く、古くなった柱が曲がり、扉と柱の間に隙間ができたものを直してほしいという注文が入ります。空いた隙間を埋めるように菱形に近い扉を設計・製作し、ぴったりと隙間のない建具にすることも積み重ねた技術の成せる業です。「現場に行って、建具を取り付ける瞬間が一番緊張します」と話します。
 木村さんのモットーは「依頼があれば、なるべく断らず何でもやる」こと。現場に行くとふすまや障子の張り替えから、壁の補修、備え付けの家具の作製までこなします。他の業者さんから「あれ、それは木村さんの仕事なの?」と声をかけられることもしばしば。
 「毎日とても忙しいけれど、やっぱりものづくりは楽しい」と話す木村さん。これからもモットーを大切に、お客さんと信頼を結びながら仕事を続けていきます。
木村建具店  木村 正美さん
住  所 稲沢市平和町須ヶ谷郷618
電  話 0567―46―1830

 井内尚樹の腕まくり指南 第195回 愛知の地域資源を考える(2)-自然地域資源を利活用した中小業者へ-
 前回は、愛知県の地域資源である、「廃車になるハイブリット自動車のリチウム電池」などをメーカー主導ではなく、住民本位で利活用することを提起しました。本紙で何回か地域資源の利活用による自然エネルギーの生産を論じています。今回は愛知県の地域資源を利活用した発酵食品を取り上げます。
 理由はフランス留学時、ワイン農家が「のんびりした生活だな」と思ったからです。秋の収穫期はぶどうを手で摘むために大量の労働者が必要です。収穫したぶどうの発酵(かもし)、ボトル詰など、翌年のぶどうづくりに必要な接木など様々な仕事がありますが収穫時ほどの労働者は必要ありません。ぶどう収穫後は、いいワインになるために、酵母が人の労働に代わって発酵しがんばってくれ、「農家は寝て待つ」状態です。
 フランスではぶどうを収穫し、樽に寝かせれば、後は「自然の恵み」である地域資源=酵母などが発酵し、人の労働に代わって働き続けてくれます。三六五日フルに労働しなければ生きていけない日本の労働者とまったくちがいます。
「発酵王国」愛知について
 古くから愛知県は酵母などの発酵作用を利用したものづくりが盛んで、醸造に適した風土(温暖さ、地下水、米など)です。知多半島が大阪と東京との海上中継地であったために、ものを運ぶ物流だけでなく、発酵食品を販売するための販路網となっていました。徳川家尾張藩の時代、「知多半島には二〇〇程度の酒蔵があり、酒粕を粕酢の原料として利用する方法が発見され、安くてうまい酢」が生産されました。米酢は高価ですが、粕酢は大量にあり、低価格でした。東北地方など寒い地域で日本酒は有名ですが、酢の生産が多いとは聞きません。寒い時期がある北の地域では発酵に適した温度が確保できないからです。
 醸造とは「麹菌、酵母など微生物による発酵作用を利用して穀物、果実などから酒、味噌、醤油、みりん、酢などを造ること」とされています。愛知県は酢の生産が日本一、四〇をこえる酒造製造、日本最古のみりん生産、「たまり、さいしこみ、こいくち、うすくち、しろ」など豊富な種類の醤油生産があります。
 愛知県は、人の労働の代わりに働いてくれる麹菌、酵母などを活用した醸造が盛んに行われ、「日本の味」を提供しています。自然地域資源を利活用する点では、フランスのワイン農家に引けをとっていませんでした。
現代は自然から遠ざかる
醸造業に変化
 江戸時代は、自然・風土にまかせて醸造業は成立していましたが、生産拡大の欲求が状況を大きく変えました。日本酒製造を例に取ると、江戸時代は暖かい時期、日本酒は造れなかったので、冬季に限った一季醸造でした。いわゆる「寒造り」というものです。
 暖かい九州などでは、日本酒ではなく焼酎文化が栄えており、日本のそれぞれの地域ごとに地域資源の違いが理解できます。資本主義が発展してくると、生産力の拡大欲求がでてきます。そのために、冷房機を開発し自然環境と同じものを造りだそうとします。一季「寒造り」の環境を冷房機で再現し、秋―冬―春の三季へと酒造りの期間が延長されました。続いて、温度、品質管理、機械化などオートメーション装置の開発で大手は春―夏―秋―冬の四季醸造まで酒造りを拡大しています。毎日、日本酒を造る環境ができあがり、日本国内で日本酒生産のシェアの大半を大企業が独占しています。酒蔵の減少で日本酒の「味の種類」が減少しました。一〇〇〇社から一〇〇社に減少したら、日本酒好きにとっては九〇〇社の味が消えたことになります。
中小業者はどのように
自然の恵みをいかすのか
 日本酒醸造に関わる中小業者は大規模投資により四季醸造ができる状況になく、大規模企業と同じ路線はとれません。中小業者の酒造りは一季醸造が大半で、冬季の自然環境そのものを利用し、それぞれの酒蔵で米、独自の麹、酵母、乳酸(菌)などを用い日本酒を生産しています。「日本酒の味」が独占的大企業だけになったら、日本酒好きはどう思うかです。酢の醸造を見ても、九〇%超えるシェアを独占的な大企業が握り、あとは中小のメーカーが非常に小さい規模で存在し、酢の味は豊富ではありません。
 中小の醸造メーカーはどのような活路があるのかです。大企業と同じ量産を追及しても、生産力は格段の差があります。「大企業になく中小業者にしかないもの」は何でしょうか。大企業は自然そのものではなく、機械化によって自然を模倣(同じ自然を作り出す)し大量生産を追及してきましたが、「自然恵み」そのものを利活用していません。地域自然資源そのものを利活用する所に中小業者独自の活路がありそうです。