幸せと驚きのひと皿~フランスレストラン~

 「一皿のトリュフ料理に感動して、フランス料理人を目指しました」。そう話すのは、鳴海駅から徒歩三分にある「ビストロノミーテオ」のオーナーシェフ、長田太一さん(三九歳)です。
 「ビストロノミーテオ」は、「完全予約制」のフランスレストラン。メニューは四千五百円のカジュアルコースから一万二千五百円のスペシャルコースまでの四種類から選ぶことができます。
 席について飲み物を選ぶと、まず一皿。黒いコースターの上にちょこんと小さなビールジョッキが登場しました。ビールのように見えるのはコンソメスープ。泡はスープをエスプーマという機械でムース状にしたものです。最近の渾身の一品と紹介してくれたのは、トウモロコシとトリュフのティラミス。見た目はスイーツのティラミスそのものですが、食べてみると濃厚なトリュフの風味と「サニーショコラ」という北海道産のとうもろこしの甘みが口いっぱいに広がります。グラスの上のポップコーンは、長田さんの遊び心です。食器も可愛らしいものばかりで、見た目にも楽しめる料理ばかりです。
 長田さんは料理の専門学校で、まだ専攻が決まっていなかった三年生のとき、フランス料理のデモンストレーション中に出会った一皿のトリュフ料理に「雷にあたったほどの衝撃」を受け、フランス料理人になることを決意しました。学校卒業後は、名鉄グランドホテルなど様々な調理場で修業を積むなかで「フランス料理をもう一度学びたい」という思いを強くし、二〇〇七年に単身、フランスへ渡りました。住居も携帯電話も働き先も決めていないままの渡仏でしたが、まっすぐな性格と料理の腕が見込まれ、すぐにレストランで働き始めます。そして五年後には料理長に就任。二〇一四年には、パリ二〇区の「Blaiseet Basile」の立ち上げに料理長として参加。ミシュランガイドのサイトで紹介されるほどの人気店になりました。「嬉しかったですね。だけど、この店は他の人に任せて帰ろうと思ったんです」と長田さん。

長田さん  地元で料理をつくりたい、お客さん一人ひとりと向き合って料理がしたい―――そんな思いが募り八年滞在したフランスを後に、帰国後「ビストロノミーテオ」をオープンさせました。完全予約制・コース料理制を六月から始めたことで食材のロスが大幅に少なくなり、その分、お客さんにより良い食材、高級な食材を提供できるようになり喜ばれています。リピーターが多く、同じフランス料理人もお客さんとして足しげく通うほど。
 十席だけのレストラン。稼ぐための料理ではなく、自分の人生そのものとして、大好きな料理ときちんと向き合っていきたい。
 「フランス料理をもっと身近に、たくさんの人に楽しんでもらえるよう工夫していきたいです」と笑顔で話しました。

ビストロノミーテオ
長田 太一さん(39歳)
住  所 名古屋市緑区鳴海町字上汐田27-3
電  話 052-621-3816


 井内尚樹の腕まくり指南
第196回 過労死と中小業者の「過業」について考える

 電通社員であった高橋さんが二〇一五年一二月二五日のクリスマスに自殺しました。二〇一六年九月に労働基準監督署が自殺を労働災害認定しました。マスコミが電通の残業時間の長さ、パワーハラスメントなどを大々的に報道したために、大企業である電通のブラック企業ぶりが明らかになりました。
 京都の基礎経済科学研究所(「労働時間の経済学」、「労働時間の短縮と生活時間の拡大により、働きつつ学ぶ」人間発達の経済学を構築することを目的としています)で一九八〇年代後半から森岡孝二先生が川人弁護士などと真っ先に過労死問題に取り組み、以後一貫して、森岡先生はこの問題に取り組んできました。現在、国のレベルで過労死防止に関する法律が制定され、『過労死白書』などが出されてきました。三〇年以上におよぶ、研究者、医師、弁護士、運動関係の皆さんたちが地道な取り組みを行なってきた成果だと言えます。
 自営業者は労働基準法の労働者にあたらず労働時間、休日等は自分で決められることになっています。自営業者の皆さんには、過労死などの問題はないのでしょうか。今回は中小業者の「過業死」問題を取り上げます。注)労働者の過労死は言葉として定義されていますが、自営業者の「過業死」などは、概念的にまだ確立されていません。
自営業者の「過業」について考える
 今年三月末にフランス留学から帰り、人間ドックを行い、生体検査の結果を聞きに行った際、私の前に三人の患者がいました。二人はすぐに診察室をでてきましたが、私の前の患者さんがすごく時間がかかりました。診察室をでてきた時の顔が忘れられません。
 今まで私は胃とか大腸などの消化器系で大きな病気をしたことがありませんでした。大腸のポリープを四ヶ所も切除するとは思いませんでした。もし帰国後、忙しさにかまけて人間ドックを一年先に延ばしていれば、ポリープが大きくなり悪性のがんになっていたことだと思います。私の前の患者さんは「仕事の忙しさを優先してきたのでは」と思いました。
 二〇一五年に全商連は大規模な「経営・暮らし・健康の向上」全会員調査を行ないました。民商会員約七万五千人もの回答数を見ても説得力のあるアンケート調査だとわかります。健康に関する質問で「医師から休みを指示されたにもかかわらず、休めなかった人は七五・六%に上り、厳しい経営環境の下で休めば、即収入減につながり、休むこともできない中小業者の実態がうかがわれます」と指摘しています。
 労働者なら労基法という歯止めがありますが、自営業者には歯止めはありません。特急の仕事の依頼、得意先から大量の仕事があれば無理をしてでも、自営業者は「自らの業を営もうと過業」します。現在「過業」に関して、法的歯止めがないなか、どう問題を解決すればいいのでしょうか。
自営業者の「過業」の解決にむけて
―まずやるべきこと―

 表を見ると、『労働時間の把握方法についてみると、「特に把握していない(されていない)」者の割合は、自営業者が七三・四%であった。一方、平成二七年度に厚生労働省が委託して実施した労働者調査では、八四・三%の労働者が何らかの方法で労働時間の把握がなされていた。』と指摘されています。「労働時間が五〇時間以上」とする長時間労働を見ると、二八・二%になっています。長時間労働は「過業死」に繋がりかねない問題です。
 過労死防止の報告書では「労働者については、使用者に労働基準法上、時間外労働に対する割増賃金の支払が義務づけられていること等により、労働時間の把握がなされているが、自営業者については義務づけがなされていないことが背景にあると考えられる」としています。
 自営業者の生活を安定化させ、「過業」を防止させていくために、何が必要かを考えると、まず第一に、自営業者の過業を規制する法の整備が必要だと考えます。三〇数年かかりで過労死防止の法整備が不完全な形であったとしても成立しました。「過業」を規制する法律の整備を求める地道な運動が必要です。第二に、自営業者の「過業」問題を労働者の過労死問題と同じくらいに告発していくことが重要です。電通の過労死問題は大きく取り上げられましたが、自営業者の「過業」は同じレベルで取り上げられているでしょうか。国会、地方自治体のレベルで過労死問題とともに、「過業」問題を取り上げる必要があります。業者の皆さんも「過業」問題を議員に国会などで取り上げてもらう必要があります。第三に、業者の皆さんの「過業」実態を明らかにしていく必要があります。業者が「労働時間を把握していない」日常的な実態を調査していく必要があります。