『目立たず謙虚に質のいいモノを』

   「元々瀬戸で瀬戸物陶器の販売の営業もやってたんですよ」そう笑いながら語るのは、木工製品製造業を営む、タイムファクトリーの根津谷忠陽さん。
 高蔵寺駅から十分ほどの住宅街で自宅の一室を作業場にしている根津谷さん。
 作業場は、部屋の中央に作業台兼経理用の机があり、棚や壁にはこれまでに製作した時計や鏡など様々な商品が並び、引き出しには作業用の機械やネジなどが入っていました。
 根津谷さんがこの仕事を始められたのは二十七年前、勤めていた時計製品企画メーカーを辞めるのをキッカケに始めました。
 自分で作らない、持たない、儲けない」をモットーに仕事をしているという根津谷さん。理由は、作ることは不良品発生の可能性、持つという事は不良在庫が出る可能性、儲ければ客先から自分が邪魔になる可能性がある、という事を意味しているのだと教えてくれました。「
 そのため、お客さんからの発注があってから、必要な素材を発注し、届いた素材の検品、組み立てを行い、その商品を客先へ納めています。
 現在では、陶器販売の営業、時計製品企画の仕事をしていた時代の横のつながり、素材を一個一個丁寧に検品する鋭い目は、納品先の担当者から「ずっと続けて欲しい」とお願いされるほどの信頼を得ています。
 最近は、結婚式のブーケ(花束)をドライフラワーに加工し、記念品としてとっておく箱型「ブーケボックス」や、造花を箱型の時計に入れてブライダルの記念品にするものが人気だそうです。
 最近では、ウェディング業者の担当者から商品の企画を持ち込まれることもあり、「それならこういう素材を扱っている人がいる」、「こういう仕掛けはどうかな」と、技術とアイディアで協力し、若い人と一緒に商品作りにも励んでいます。
 自慢のつながりで担当者の意見を取り入れられるよう、様々な業者さんを紹介、提案し、担当者とお客の理想通りになるよう素材の発注を行っていきます。
 その代わり、自分一人で受注、発注、組み立てを行っているため、自分に何かあった時の為にと、業者さん了解のもとお客さんに連絡先や社名をを公開しています。
 【流通の流れにのって】
 お話の中で根津谷さんは、「僕は黒子だからね」とよく口にしていました。理由をお聞きすると、「黒子の意味はお客様の裏方に徹するという事、つまり、お客さんが儲かるように一緒に考え工夫する事が第一、お客が儲かればそのお客はまた次の注文をくれる、結果的に自分も儲かるという考え方、自分が儲けることを考えず、もっと言えば儲けなくとも損をしなければ良しとするという事だよ」と話しながら、「この発想がタイムファクトリーの出発点であり、譲れないコンセプトです」と語ってくれました。
 これからの展望についても、「最初は早く楽をしようかなとか考えてたけど、生活必需品と違って雑貨類は、趣味としていつも誰かしらが求めているから、やっぱり生涯現役かな」と商品の時計の箱を組み立てながら、根津谷さんは感慨深げに話していました。
タイムファクトリー
根津谷 忠陽さん
 愛知県春日井市岩成台5丁目2番地の19  TEL/FAX 0568-92-3058


 『Dr.inouchi 井内尚樹のシリーズ腕まくり指南 第206回 岡山県の中山間地を調査してー津山市あば地区を例にー』
 ユニークな地域経済の実践を行っている地域として津山市あば地区を紹介します。この地域は、岡山県と鳥取県との県境に位置しています。あば地区は阿波村として一一五年間村を続けていましたが、二〇〇五年に津山市と合併し、村はなくなりました。  平成の大合併前の一九八五年には地方自治体数三二五三でしたが、二〇一八年の市町村数は一五三五減少し、一七一八にまで減っています。あば地区も他の地方自治体と同じように平成の大合併で消滅した村ですが、ユニークな取り組みをはじめています。愛知県、岐阜県、三重県の東海地域でも市町村合併が進められました。「合併で消滅した町村となってしまって、何もできない」との悩みをよく聞きますが、あば地区の取り組みから学ぶべき点があります。

  【あば地区の取り組み ―ないなら自分たちでつくるガソリンスタンド―】
 あば地区の人口は合併当時七〇〇人いましたが、二〇一五年には五六三人、高齢化率四七・七%となっています。村役場はなくなったのですが、合併後の二〇〇八年にまちづくり協議会をたちあげ、環境にテーマを絞り「エコビレッジ阿波構想」を策定しました。そして二〇一五年には「あば村宣言」を行いました。
 二〇〇五年の合併以後人口が急速に減少し、津山市は住民自治協議会の取り組みをはじめました。この住民協議会は、小学校区程度をエリアとし、地域の様々なコミュニティ組織、各種団体から協議会組織をつくるものです。行政と協議会が協力しながら地域の活性化を進めることが目的でした。エコビレッジ構想でごみの減量、アヒル農法の実施、間伐材を集荷し温泉の燃料とする木の駅プロジェクト、高齢者の移動の足を確保する過疎地有償運送事業などをNPOが行ってきました。
 こうした取り組みにもかかわらず、人口減少がさらに進み、幼稚園の休園、小学校の統合、JAのガソリンスタンドの撤退、行政支所の規模の縮小など「逆境のデパート」状態が続きました。こうした負の連鎖が続く中で、あば地区の住民は立ち上がりました。そして二〇一五年に「あば村宣言」を内外に宣言し、新しいむら(村)のかたちを模索しはじめました。津山市に合併しているために、旧の「阿波村」を使わず、「あば村」と宣言したところがユニーク発想だと思いました。「あば村運営協議会」のもとに総務部、環境福祉部、農林事業部、エネルギー事業部、交流・発信部を設置し、「あば村」を地域住民が運営しよう考えています。
 JAのガソリンスタンドの撤退に対して、この協議会は立ち上がります。あば地区からガソリンスタンドがなくなると、近くのガソリンスタンドには往復二〇キロを走らなければなりません。ガソリンスタンドが遠すぎて、車を運転できない高齢者、冬の暖房用の灯油は雪で買いにいけなくなります。
 そこで考えられたのが、住民出資の「合同会社あば村」の設立です。社員はあば地区に住む住民一三四名で出資者が社員である合同会社LCCという形態を選び、法人が設立されました。ガソリンスタンドの横には「あば商店」が生鮮三品や日用雑貨品などの物販事業もおこなっています。
 地域に必要なガソリンスタンドを住民自らの手で再建していく取り組みは、「買い物難民」などで買い物する「場」がないと困っている都会の人たちにも大いに参考になります。

  【エネルギーの地産地消を地域資源の利活用で目指す―木の駅プロジェクト】
「あば村」では、小学校跡地などの小さな拠点づくり、地域エネルギー拠点、地域振興の拠点づくりなど様々な取り組みを行っています。そのなかで、木の駅プロジェクトを見てみます。
 森林が九四%をしめているあば地区、他の日本の森林地域と同様、木材価格の下落で、間伐材は山に放置されたままで、間伐が行われず山が荒廃していました。間伐材を「集めて・破砕処理し・地元で消費する」地域経済循環の取り組みとなります。
 地元の山林所有者によって、間伐材が木の駅まで運ばれ、間伐材はチッパーで破砕処理し、あば温泉のボイラー用の燃料として使われます。石油系燃料ではなく間伐材を燃料として使うため、CO2排出抑制の効果につながり、間伐材は商品券として交換され、あば地域の商店などで使用できます。今後は、間伐材利用の地域を拡大し、一般向けの薪に加工することも計画されています。
 市町村合併後、使える財政が少なくなったので、何もできないと諦めるのではなく、地域住民とともに、旧「阿波村」から新しい「あば村」へと再生させ、地域に必要な事業を立ち上げ、地域経済循環の取り組みを自らの地域で実践する必要があります。